書籍情報
- タイトル:マザー
- 著者:乃南アサ(直木賞作家)
- 出版社:講談社
- 発売日:2024年8月28日
- ページ数:256ページ
- 収録作品:全5編
この短編集は、母親という役割に縛られながらも、自分自身を取り戻そうとする女性たちの姿を描いています。
それぞれの物語は、家族の中で「母」として生きてきた女性が、ある瞬間に見せる“本音”や“反乱”がテーマ。
- セメタリー 家族の太陽だった母が、実は…という衝撃の展開。
- ワンピース うつ病の兄と母の関係、そして再婚の知らせがもたらす波紋。
- ビースト 娘と孫との同居がもたらす予想外の生活。
- エスケープ 胎児の記憶を持つ少女が感じる“逃げたい”という本能。
- アフェア 娘が巣立った後、自由を謳歌する高齢女性の変貌
どれも面白いですが、今回は、はじめのセメタリーについて書いていきたいと思います。
セメタリー あらすじ ネタバレ
主人公は、社会人として東京で暮らす藤原岬樹(みさき)。
自分ではちびまる子ちゃんのような、幸せな家庭に育ったと思って生きてきた彼。
彼は久しぶりに故郷へ帰省し、かつての「笑いの絶えない仲良し家族」の記憶を胸に、懐かしい家へと足を踏み入れます。
しかし、そこで目にしたのは、かつての明るい家庭とはまるで違う、静かで重苦しい空気。
祖父母、父の死を経て、家には母が一人残されていました。
岬樹は、母がずっと「家族の太陽」として笑顔を絶やさず、介護も家事もすべて一人でこなしていたことを思い出します。
でも、母の本当の姿は――
- 認知症の祖父を用水路に突き落とし
- 祖母に食事を与えず
- 夫の病気を黙って放置していた
という、静かなる反乱者だったのです。
母は、何十年も「良き妻・良き母」として生きることを強いられ、
その中で積もり積もった怒りと疲弊を、誰にも気づかれない形で爆発させていたのでした。
セメタリー 感想
この物語は、母の行動を単なる“犯罪”として描いているのではなく、
「母という役割に押しつぶされた一人の女性の叫び」として描いています。
岬樹が最後に知る母の本音――
「自由に生きなさい」と言い続けてきた母自身が、一度も自由ではなかったという事実。
それが、読者の心に深く突き刺さります。
岬樹には笑顔の絶えない母であったが、一人で苦悩を抱えていた母。
母が犯した行動の背景にある静かに積もった疲弊や孤独、誰にも言えない苦しさ。それを丁寧に描いているからこそ、読者の心に刺さるし、「ただの犯罪」とは思えなくなる。
『セメタリー』の母も、ずっと「家族の太陽」として頑張ってきたけれど、その光の裏には影のような心の闇があったんだと思います。
その姿が、怖いけど切ないと思いました。これこそ乃南アサさんの深みなんですよね。
短編なので読みやすかったです。
さっそく他の短編も気になった、そこのあなた是非購入して読んでみましょう