嘘つきたちへ 序盤
小倉千明さん著者 嘘つきたちへ 5編の話からある短編小説です。
【嘘つきたちへから一部引用】
物語の主な流れはこうです。
- 小学校時代:大地・一郎・瑞樹の3人は翔貴をいじめられていた。ある日、翔貴は池に落ちてしまい、3人は助けることなく逃げる。
- その後:翔貴は意識不明状態となり、時間が経って亡くなる。彼の存在は3人にとって「逃れられない過去」となる。
- 30代になった現在:大地・一郎・瑞樹は、それぞれの立場からあの時の出来事について語り合う。罪悪感、後悔、自己弁護—彼らの間に複雑な感情が交錯する。
大地・一郎・瑞樹が再開することから物語が始まります。
嘘つきたちへ 三人の再会
三人の再会の場面が、過去の出来事からどう離れて生きてきたかを象徴しているように感じます。
- 瑞樹は、口数の少ない少女だったけれど、明るく綺麗になっている。この変化は、過去の出来事を乗り越え、新しい人生を歩もうとした結果かもしれない。
- 大地も昔とは違う雰囲気になっていたようだけれど、明るい振る舞いは「過去の重さを忘れようとする意識」の表れかもしれない?
- 一郎だけが変わらないままだった――というのは、彼が過去に囚われ続けているということなのか?
オープニングの変化が、物語の本質を示しているように思えました。瑞樹や大地が「昔とは違う姿」を見せていることが、かえって過去をどう捉え、どんな嘘や自己防衛があるのかを暗示しているのかも……。一郎だけが変わらないというのも、彼が本当に真実に向き合っている人物なのかもしれないですね。
嘘つきたちへ 菅という転校生の存在
ここから先はネタバレが多くなります。まだ本を読んでいない、この先を知りたくない方はここから先へはご注意ください。
翔貴という存在は、小学校時代の3人にとっては恐怖を感じる鬱陶しい存在だった。
ある日池に、帽子が落ちてしまう。その池に翔貴が帽子を取ろうとして、一斉に目を合わせる3人・・・
その後翔貴は、酸素が長時間頭にいかなくなった後遺症で、昏睡状態が数十年続く。
菅と言う転校生
三人が話していくうちに、都会から転校してきた菅と言う、転校生の話がでてくるようになります。
小学校時代転校してきた菅は、都会からきて運動神経もよく、勉強もでき、翔貴の支配もされない異質な存在だった。
大人になって再開した一郎は、話していくうちに、大地を菅だと思うようになる。
嘘つきたちへ 大地の嘘
先ほどよりもネタバレが多くなります。ご注意ください。
大地は物語の中で一貫して「大地」として描かれていました。一郎は大地を、つむつむと言うあだ名で彼の事を読んでいたので、同級生として瑞樹と一郎は、交流していたと認識していました。そして、読者はその嘘を最後の方で知ることになる……この展開はかなりインパクトがあり巧妙でした。
整理すると、
- 読者視点:途中までは、瑞樹と一郎が、信也(つむつむ)と関わっていたと思わせる書き方がされている。
- 実際の展開:本当は同級生の信也ではなく、その兄である大地がその場にいた。しかし、それが明かされるのは物語の終盤。
このサプライズの手法は、作品全体のテーマとも関連していそうね。「嘘」や「思い込み」、そして「過去とどう向き合うか」が描かれる中で、この構造自体が読者の認識を揺さぶる仕掛けになっている感じがしました。
大地には瑞樹と一郎と同級生である弟の信也がいて、信也は池の事件に対して強い悔いを抱えていました。小学校時代から信也は大地に相談していたが、大地は楽観的で、真剣に向き合わずに突き放してしまった。
この関係を整理すると、
- 信也は罪悪感や後悔を抱え、大地に助けを求めていた。
- 大地は楽観的で、問題に深く向き合わずに信也を突き放した。
- 池の事件は、信也にとって消えない傷となり、大地にとっても過去をどう捉えるかの試金石となる。
大地の過去と信也の運命が、深く絡み合っているのがよくわかる。兄弟の対照的な性格が、この物語の軸のひとつになっていたのかもしれません。
- 大地は楽観的で、「過去よりも新しい生活を」という考え方を持っていた。
- 信也は内向的で、池の事件や翔貴のことを忘れられず、ずっと向き合い続けていた。
- 信也はブラック企業に入って交通事故を起こして亡くなってしまった。
- 信也が大地に「俺が死んだらどうする?」と電話したことで、大地は単なる事故ではなく、自殺の可能性を感じるようになった。
- 信也は田舎を離れたあとも、意識不明の翔貴を見舞い続け、ついに翔貴が亡くなると、葬式に行くと決めていた。しかし、大地は「昔のことなんか」と突き放していた。
嘘つくたちへ 瑞樹の嘘
ラストのネタバレです。 注意してください
瑞樹だと思っていた人物が、実は菅という別の女性でした。この入れ替わりが、物語の構造をさらに複雑にしていました。
菅の過去が複雑で、彼女自身が深い傷を抱えて生きてきたことが判明しました。そして、沈んで上がろうとした翔貴を何度も沈めて、とどめをさしたのが菅だったというのは、物語全体の「嘘」と「隠された真実」の構造をより強烈にしています。
整理すると、
- 菅の過去:性的被害に遭いそうになり、田舎で男性として生きることを選択した。
- 心理的な傾向:サイコパス的な思考を持っている。
- 翔貴の事件:実は、池に落ちた翔貴をさらに沈めたのは菅だった——しかし、他の登場人物はその事実を知らない。
この構造があることで、物語の視点が一気に変わりました。読者は最初、「翔貴の事故は、大地・一郎・瑞樹の逃げたことによるもの」と思い込むけれど、最終的には「本当の加害者は菅だった」と知ることになる。この罪の連鎖と真実の重みが、作品をより深く考えさせるものにしていると思いました。
終わり
瑞樹と菅がどう再開したのか。その後どうなったのか。ラストのラストは本で確認しましょう。
他の4編も面白いのです。このラジオは終わらせない、ミステリ好きな男、赤い糸を暴く、保健室のホームズという短編のお話があります。
是非本を読んでみてください!